「市民が見たウクライナ侵攻2023 10月」(NHK)というドキュメンタリーの中で、日常を失い、死と隣り合わせの中で懸命に生きるウクライナの市民の姿が描かれていました。その中の一人、アントン・テニックさんの農場(約2800ha「1haは約3000坪」)では、6か月間侵攻したロシア軍との戦場になりました。村では940戸の家屋が破壊され、避難できなかった村人全員が殺され、アントンさんの農場の穀物貯蔵施設や農業機械も破壊されました。そしてロシア軍が撤退した後、戦場となった畑には大量の砲弾や地雷が放置されました。それを金属探知機を買って全ての畑を調べて砲弾を集め、トラクターを改造した自前の装置で地雷を処分しました。それでも集めきれなかった砲弾が爆発して収穫予定のトウモロコシが全て燃え、農場は元通りには戻っていません。
このような農作物が収穫出来なかった事による損失や破壊された設備の再建、残された武器弾薬の撤去費用などが推計で約400万ドル(約6億円)にもおよび、アントンさんの農場負担に重くのしかかっています。また、黒海周辺の港湾施設が破壊された事により穀物の輸出が出来なくなり、国内での穀物価格の下落が止まらない状態になっています。このような苦境に追い込まれながらもアントンさんは「農地を復活させ作物を供給することが私の戦いです。誰かがやらなきゃいけないことなんです」と語り、来年収穫予定の小麦の種をどこまでも広がる畑に撒いていました。
このロシアによるウクライナへの軍事侵攻は今年も続いており、そして2023年10月7日にはパレスチナ・イスラエル戦争が始まりした。12月22日現在、パレスチナ20000人以上イスラエル1200人以上の死者数ですが、その数は増え続けています。特にガザ地区では病院や学校など無差別に爆撃され、一般市民が理由もなく命が奪われる惨い状況が続いています。このように戦争により世界が暗雲に覆われる中、地球自体も天変地異とも言える「沸騰化」の1年でした。そして「げんきの市場」の生産者の方々も非常に厳しい農業を強いられる事になりました。このように異常気象により農業による生産が厳しくなる中で、日本の農業従事者の中心が60・70・80歳代であり、今後、耕作放棄地が大量に発生して、日本農業の崩壊する未来がすぐ目の前まで差し迫っています。
20代の頃、「人間の欲望から自然界を図ろうとすれば歪みや矛盾を生じるが、自然界から暮らしを育てるとそこには喜びがある」と気付いて、生産者と消費者を結ぶ産直グループの事務局で働きだしました。しかし、自然界をベースに生産者と消費者を直線で結ぶと、常に自然界から思惑超えた現実がおき、それをどの乗り越えるかで、その都度に立場の違いによる隔たりを強く感じていました。そのような中で、「提携」という形を維持しながら、双方への負担を補う事を目的とする「げんきの市場」をスタートしました。そしてこの「間接提携」が、今までの「欲望に動かされる経済」とは別の「生命」を中心にして地球へと同心円で広がる「経済」(生命経済)のモデルになる事を願っています。そして、私たちも冒頭でご紹介したアントンさんのように、自分にできる目の前にある現実に取り組み、より良い未来への礎になれるように努力を積み重ねてまいります。本年もご愛顧を頂き有難うございました。来年が皆様とってより良い年である事を心よりお祈り致します。
*12月31日から1月3日はお正月休みです。今年1年ありがとうございました。