「人が土を守れば、土は人を守る」という未来を育てる為に 野菜情報VOL.662 令和5年6/25~7/1

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月や火星の表面の映像がたまに探査機などにより映さ出されると、一見地球に似た風景に見えますが、映っている光景は岩や砂の鉱物であり「土」ではありません。「土」はいっけん岩が風化して単に細かくなったものだけに見えますが、それに植物、動物、昆虫、微生物といったあらゆる生物が関わることでつくられます。まず、岩が膨大な年月の中で水や空気にさらされて細かくなり、さらに微生物や植物が岩や砂から栄養を吸収するために酸性物質を出して水にも溶けるようにします。そして、そこで生息する植物を昆虫や動物が食べて糞尿を出し、そしてまたその生物が死んで、それをまたミミズや微生物が分解して…という生命の大きなサイクルがあり、その中で「土」となります。つまり、生命が存在しないところでは「土」は出来ないので、月や火星には岩石や砂なのどの鉱物はあっても、「土」はないのです。この「土」を地球全体の表面に広げるとわずか18cmであり、地球という生命の「皮膚」のような世界で、人類は文明を育んできました。

 この「土」の世界の生物性の視点から研究を続けているのが、農学博士の横山和成博士です。この土の世界の微生物といった生物性についての研究は、あまりに多様な為にほとんど手つかずの状態であり、いまだに宇宙同様に未知の世界です。例えば土の世界1g(1円玉の重さ)の土壌の中に億から兆の数の微生物が存在し、千種以上もあるその種類の中でそのほとんどが新種であり、培養して調べようとしても実際に見える数の百分の一以下で、個々の機能もわからず、群としての機能も組み合わせが多すぎ、現代科学の世界が入り込めません。その為、今までこの土の世界の生物性をはかる方法がほとんどありませんでしたが、横山博士は微生物同士の関係性が複雑に絡み合ってわけのわからない、その複雑さ、それ自体を物差しにしてしまう「多様性」という情報量を数値化しました。つまり、「一様でない=わからない」という、「わからなさの物差し(指数)」をつくって、それを数値化して「温度」のように数量により「多様性を測る」のです。土壌の微生物を可視化する為に、土の中の土壌微生物の遺伝子だけを光らせる染料を土の中に入れ真っ暗な土の中で土壌微生物を見る技術があり、その方法で土の中を見ると微生物が宇宙に浮かぶ星雲のように光って見えます。横山氏はそうした微生物たちが土の中で知られることもなく地球の生命を主役として回している姿を「土の中の銀河」と呼んでいます。

 「土」は一見茶色い鉱物のように見えますが、このようにまさしく生命の塊で、その中で微生物は約40億年前から地球上にいて生命のエネルギーを回し続けてきました。今、この地球の生命群を支える「土」が劣化し、消えていこうとしています。「国際土壌年」と決められた2015年に、国連食糧農業機関(FAO)の事務局長は、すでに世界の土壌資源の33%は劣化していて、新たな取り組みを始めない限り2050年には一人当たりの耕作可能地は、1960年の4分の1になると警告しました。このような砂漠化が起こる要因は、気候的要因と人為的要因の2種類に分けられます。気候的要因は地球温暖化といった気候変動による気温の上昇や干ばつ、乾燥化などが挙げられます。人為的な要因とは化学農薬や化学肥料の多投による農耕や開墾、放牧などの農業生産、そして過度の森林伐採などです。この気候的要因も人為的要因もどちらも、私たちの現在の文明を築き上げた科学技術が地球の生命圏を破壊しています。

 「地球環境・異常気象・食糧問題を土から見る『世界の土・日本の土は今』」(日本土壌肥糧学会2015年刊)という本では、世界と日本の土壌劣化に焦点をあて、それぞれの土壌の適切な管理の大切さを訴えています。そして環境保全型農業の推進を進める事が自身と地球の未来を守ることであると「人が土を守れば、土は人を守る」という言葉で締めくっています。思想史家の渡辺恭二さんは人間が人間らしくあるために「土を離れない」という言葉を残し(野菜情報VOL659)、日本一の治療家は自身の末期ガンを「アーシング」により命を救われました(野菜情VOL661)。土の元気が、作物の元気を育て、人の元気を育て、そして地球の元気を育てます。私たちの食卓が私たちの身体の健康だけではなく、直接に地球の未来を守る事もできるのです。私たち「げんきの市場」は生産者や皆様とご一緒に「土の世界」から、日々の暮らしの中で生命の喜びを育ててまいります。

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