「天のしずく 辰巳芳子 “いのちのスープ”」は、「食」と「いのち」にむきあう料理研究家の辰巳芳子さんの日常を記録したドキュメント映画です。映画は3.11直後に鎌倉の自宅で行われた料理教室からスタートします。その中で、辰巳さんは参加されている女性の方たちに「食は生死を分ける。そして食は築きあげていくものです。食材を選び、それをどう調理するか、どう食べていくか、これは本当の気づきに繫がります」とその大切さを伝えています。
辰巳さんは脳梗塞で倒れその後遺症により食べる事が不自由になった父親のために、亡くなるまでの8年間、海や山の恵みを体が吸収しやすいようにと工夫を凝らしてスープをつくり続けました。そして、亡くなられた後は、鎌倉でスープを運ぶ訪問看護のボランティアを始められました。こうして家族から隣人へ、さらにスープ教室をスタートさせ、その事により、人々を癒す「いのちのスープ」が多くの人々の関心を集めていきます。
映画の中では、ある医師が辰巳さんのスープと出会い「患者の方々にこのスープを飲ませたい」と手紙をだしたことがきっかけで実現した終末医療に携わる人々を招いて行われたスープ教室や、その後にそれに参加されたスタッフたちの手で実際にスープがつくられ、緩和ケア病棟の患者の方々がスープを飲み、その香り、素材のうま味、口の中に広がる余韻などに満たされ、それぞれがホッと輝く表情が映し出されています。
この映画で描かれるスープの物語は、辰巳芳子さんの中心にある「愛することは生きること」という生きる姿そのものであり、「食」を通しての「いのちと愛」の道筋です。辰巳さんはもの言わぬ野菜たちに「どうしてほしい?」「あなたの良さを引き出すにはどうすればいい?」と問いかけながら手をかけます。このもの言わぬ野菜たちの求めに繰り返し応えることで野菜たちの持ち味が引き出され、美味みが溢れる極上のハーモニーが生まれます。
そして辰巳さんは、農業と呼ばれる食べ物作りは常に変化する自然相手の生活であり、その人生は油断できぬ忍耐、努力の日々であるからこそ、常にその作り手たちに心を通わせています。「土を離れて人間の存在はあり得ない。土といのちは1つであり、宇宙の慈しみが土に籠っています。土は天からの言葉である」とも語られています。
映画の最後には辰巳さんの台所や食卓を囲む姿と共に、メッセージが映し出されました。
「いのち、そのものの慈悲から目をそらさぬこと
愛し、愛されること
宇宙、地球、即ち風土と一つになり生きること
食すことはいのちへの敬畏
食べものを用意することは、いのちへの祝福」