首都圏の長く続いた雨がようやく途切れた翌日。
「げんきの市場」に納品に来た石垣さんに、「畑に入れましたか?」と尋ねました。
「まだ土の水分は多いですが、今日は畑を耕します」
その日のSNSにも、約1か月遅れている大根と人参の種まきに向けて、耕運機で畑を整えている様子が紹介されていました。
翌日には、種まきを終えた畑の写真が載っていました。今回は寒さに備えて、畝の表面を覆い、地温を保つマルチシートを使ったそうです。
石垣さんは、長雨による遅れを「原点に戻る」きっかけと捉えていました。
普段は播種機を使う種まきも、今回は久しぶりに手で行ったとの事。
効率を考えれば道具を使う方が良い。でも道具がなくても作業はできる。
便利さの陰で忘れていた作業の基本を思い出せた事が、大きな収穫だったと綴っていました。
思うように進まない状況の中でも、次につながるものを見つける。その言葉に、生産者のたくましさを感じました。
農民作家の星寛治さんも、著書『農から明日を読む』で、困難に遭っても幾度となく立ち上がる生産者の姿を描いています。
星さんが農業に取り組んだ45年間、1年として同じ天候の年はありませんでした。
毎年変わる気象の下で作物を育てる農業は、同じ工程を繰り返す工業生産とは全く異なる営みです。
意欲をもって取り組んでも、天候不順や病害虫、冷害、干ばつ、台風、豪雪などに見舞われ、不作に泣くことがあります。
それでも次に希望を託し、土の力を信じて、耕す手を休めない。
星さんは、そうした生産者の内にある力を「百姓が春を予感する力」と表現しています。
以前の野菜情報で、長雨による厳しい畑の状況をお伝えした山崎さんにも、その後の様子を伺いました。
「昨日(10月6日)、ようやく白菜を植える予定の畑に入れて、堆肥をまくことができました。うまく結球するかは賭けになりますが、白菜を3千株植える予定です」
一方で、植えられずに残っているカリフラワーやキャベツの苗は、これからの寒さを考え、今年は諦めたそうです。
9月初旬に植えたキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーが、どれだけ育ってくれるかを見守っています。
「大根、小松菜、ほうれん草、カブ、菜花などは、これからでも年内に間に合うと思います。育つ日数が短いミニ白菜も植えるつもりです」
ただ、秋が深まるにつれ、日照時間は短くなり、地温も下がります。生育に使える時間は、少しずつ限られていきます。
「朝晩の土の温度が10度を下回ると野菜の成育が遅くなり、土に霜が降りたら成育は止まります。これからは、時間と天候との勝負ですね」
その言葉から、一日一日を逃さずに畑へ向かう姿が伝わってきました。
10月は冷たい露に秋の深まりを感じる「寒露」(かんろ)から、霜の季節を迎える「霜降」(そうこう)へと移っていきます。
私たちがこの季節の移ろいの中で紅葉の美しさを愛でる間にも、生産者の皆さんは休むことなく、天候を見ながら次の収穫へ向けて手を動かしています。
食卓に届く野菜の一つひとつには、そうした工夫と決断、そして諦めずに育てる生産者の日々が重なっています。
今日も当たり前のように私たちに野菜が届く中で、その向こうにいる人の姿を思い浮かべながら、感謝をして食べていければと思います。
そんな私たちの暮らしの中にある季節の恵みを味わえる喜びを、これからも日々の暮らしの中で大切にして次の世代へとつなげていきたいものです。
