2000年代初頭、「ミツバチが消えた」というニュースが世界中を駆け巡りました。ハチは「世界の食糧の9割を占める100種類の作物のうち、7割はハチの受粉が媒介している」(国連環境計画2011年発表)と言われ、私たちが生きる生態系には欠かせない生物です。その大量失踪は蜂群崩壊症候群(CCD)と名付けられ調査をする中で、その原因としてクローズアップされたのが、その頃、世界中で一斉に使われだしたネオニコチノイドという殺虫剤でした。
農薬の歴史は古く古代ギリシャの時代から使われていましたが、それらは全て天然物や無機物でした。それが第二次世界大戦後、化学合成農薬に入れ替わりました。対戦直後は毒ガス兵器の研究から発明されパラチオンなど毒性の強いもので、それからDDTといった有機塩素系へかわりましたが、1962年レイチェルカーソンの「沈黙の春」によりその危険性が指摘されると、マラソンなどの有機リン系農薬、さらに除虫菊の有効成分から開発された合成ピレスロイド系の農薬、そしてニコチノイド系へとより低毒性へと移行していきました。
ニコチノイド系は戦前から天然殺虫剤として使われていたタバコ葉に含まれている成分を化学合成してつくられています。水溶性が高く植物体への浸透移行性もあり残効も高いため殺虫回数を削減でき、しかも安全性の高いとされていたことから1990年代から世界で主流の殺虫剤として使われだしました。しかし、現実には先週の野菜情報でお伝えしたとおりハチ以外の生態系も破壊し、胎児の脳機能障害、発育障害、狭心症、免疫機能障害、うつ病など様々な影響を与えていると指摘されています。
私たちの生活の利便性のために現代科学が発明したしたものが地球の自然体系や私たちの健康を脅かす存在になることは、いたるところで起きています。大量につくられたプラスチックが紫外線による劣化や海に流され波の作用で破砕したものが1mm以下の微量サイズのマイクロプラスチックに変わって海の生態系を破壊し、またそれを食べたプランクトンを食物連鎖で魚が食べ最終的に人間の体内に蓄積されており、またそれ以外にも様々な経路により人体へ入り乳がんや生殖異常など様々な弊害を起こしている事実が判明しています。
自然界には存在しない「不自然」なものは、「自然ではあらず」なのです。私たち人類が進歩として描いた未来が自らの存在を脅かす事態を招いています。微生物などのミクロの世界から自然界のマクロの世界まで、全ての生命はお互いに影響しながら大生命圏の中で生命を全うしています。今からでも地球の一員に戻り「天に唾を吐く」行為は早急にやめなければなりません。私たちは自身と地球生命の「健康」(円満なる姿)を同心円で結んで、それを土の中の世界から広げていきながら、その喜びを暮らしの中で育てていきましょう。滋味豊かに育った旬の野菜たちが彩る食卓を囲むとき、「いのちの健康」の喜びが溢れています。