「ポストコロナの生命学」を読んで気づいたコロナの意味と未来 野菜情報VOL.608 令和4年5/15~5/21

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 私たちが暮らすこの世界がパンデミックに覆われることを誰が予見していたでしょうか?新型コロナウイルス(以下コロナ)は2022年5月10日時点で、世界で感染者数は約5億18百万人、死者数は約625万人(アメリカ合衆国ジョンズ・ホプキンズ大学調べ)に及び、その数はまだ増え続けています。そしてこの歴史に残るパンデミックは私たち人類にとってどのような意味がるのでしょうか?それは単なる大疫災なのでしょうか?今世紀におきたこのコロナと人類との遭遇について、分子生物学者の福岡伸一氏が美学者伊藤亜紗氏と歴史学者藤原辰史氏との共著「ポストコロナの生命哲学」(集英社新書)の中で、その事について積極的に思考を深めています。

 世界がコロナと対峙をし「ウイルスとの戦争」と捉えている中で、福岡氏はパンデミックが始まった当初から、新型コロナウイルスについて論じた文章を新聞紙に寄稿し、専門家の立場から「ウイルスを根絶したり撲滅したりする事はできず、私たちがとれる選択肢はただ一つ、ウイルスと共に生きることである」と、生命や生態系を俯瞰する視点から勇気を持ち発言されていました。

 そして今回の「ポストコロナの生命哲学」の中で、福岡氏は「コロナが私たちに問いかけているのは,生命や自然とは何かということであり、人間が築き上げた文明社会がこのままでいいのか、あるいはどちらに行くべきなのかということが提起された重要な問いである」と指摘しています。もともと自然界の一員として生きてきた人間は、原始に「ロゴス」という人間主体の倫理を発明し、それが文明と呼ばれる政治、社会、科学というものを築きあげてきました。その文明社会の中心にある「ロゴス」が、もともとの私たちの生命としての本質である自然(ピュシス)から反撃をうけたのが今回のコロナ禍の真相だと捉えています。

 だからと言って、福岡氏は「ロゴス」を全否定しているわけではありません。ただ,あまりにもそれに偏り過ぎて、人間が本来「自然」の一部である事実を忘れてしまった事が問題なのです。そして、「ロゴス」により創造された政治、社会、科学からぬけおちている「いのち」に対する基本的な態度の表明、つまり、生命哲学をコロナ後のこの時代に構築していく事の必要性を指摘しています。

 そして最後に「我々に最も身近な自然は私自身の身体であり、まずは自分の生命を実感することから始め、他者や他の生命体も同じように自然物として生きていることへ思いを馳せることを生命哲学の基盤として、真に『新しい』私たちのあり方つくる事」の重要性で結んでいます。コロナのパンデミックで世界中に不安や、悲しみ、怒りが渦巻き混沌としている中でもなお、私たちの人類の歴史に希望の光を灯そうとするこの本に深い感銘を受けました。今から、そして今こそ、私たちの日常が未来への灯となることが出来ればと心から願います。

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