「21世紀に生きる君たちへ」は、歴史作家の司馬遼太郎が1989年に小学6年生の子どもたちの教科書のために書いた文章です。「私は、歴史小説を書いてきた」で始まるこの文章は自分たちが生きた20世紀を「ある意味で自然への恐れが薄くなった時代」だといい、「人間は、自分で生きているのではなく、大きな存在によって生かされている。」と指摘しています。そして、「この自然への素直な態度こそ、21世紀への希望であり、君たちへの希望でもある。そういう素直さを君たちが持ち、その気分を広めて欲しいのである。」と子供たちが大人となり生きる21世紀のへの思いを綴っています。
21世紀がスタートし、20年以上の歳月が過ぎました。そして今、コロナウイルスという感染症によるパンデミックが世界を覆い、「経済」か「生命」か、といった問いかけが日々繰り返されています。また、世界各地では今までに経験したことのない異常気象に見舞われ、自然災害が起きています。オゾンホール研究でノーベル賞を受賞したパウル・クルッツエン博士は46億年の地球の歴史の中で、この時代を「人新世」(じんしんせい)という新しい地質年代に入ったと名付けています。それは人間の活動が小惑星の衝突のように大きな変化を地球自身に与え、その影響が地層にまで現れているというものです。それは同時にその反動で、地球の影響が人類に大きく災害となりあらわれる時代なのかもしれません。
経済学者でマサチューセッツ工科大学教授のダロン・アセモグル博士は、今後も人類が経済成長を維持しながら、社会や環境への影響の仕方を改善していくためには、それを支えるものとしての新たな「社会規範」の大切さをあげています。「欲望や強欲を、法律や規制だけで抑えることはできません。例えば政府が化石燃料を使うなと強制するより消費者がエコな車が欲しいと選択するといったように、市民社会の中で人が人に行動変容を促すそうした社会の規範がともにあることが必要である」と考えています。
その具体的なものとして国連を中心にSDGs「持続可能な開発目標」の17項目が全世界に向けて進められています。それは素晴らしい未来の姿ではありますが、それらが私たちの足元からの選択ではなく、何か義務や強制のようなもので進められないかと危惧します。
「食」と「農」の関わりの中で「生命のしきたり」を取り戻し、「健康」を育てる事は「地球」という生命と私たちとのボタンの掛け違いを治すきっかけになります。皆様が生産者の方々と共に実践している「健康を育てる食卓」こそ、ダロン・アセモグル博士が指摘する「社会規範」となる未来への実践のカタチなのです。「健康」とは「生命の円満な姿」であり、「身体」から「家族」へ、「家族」から「社会」へ、そして「社会」から「地球」へと波紋は広がります。そして、暮らしの中で、1人1人が自ら「健康を育てる喜び」こそ、司馬遼太郎が指摘した「21世紀の希望」なのです。私たち「げんきの市場」はそれを応援します。