「寒きゃ育ちが悪いし、暖かくなればアブラムシ。今更ながら無農薬栽培の難しさを実感中です」。越谷市の生産者の石垣さんが3月3日Facebookにアブラムシがついた小松菜の茎の写真と共にコメントがあげられていました。冬の間は、野菜たちは成長が止まり寒さに耐えながら糖分をたくわえていますが、日照時間が伸び気温が上がりだすと再び野菜は成長を始めます。それと共に3月に入り急激な温度の上昇で冬の間はいなかったアブラムシも同じように活動を始めたようです。
このように春の訪れは温度上昇と冬の戻りを繰り返す三寒四温を繰り返しながらも、3月の気候と共に畑に残っていた野菜たちは確実に春の装いへと動きだしまします。冬の間、成長の止まっていた小松菜や蕪、白菜などのアブラナ科の野菜たちは再び成長しながらやがて茎立ちを始め、花の蕾をつけて菜花へとかわります。菜花は黄色い花を咲かすアブラナ科の総称で、小松菜の菜花、蕪の菜花、白菜の菜花など色々な種類の菜花が、げんきの市場の売り場に一斉に並び始めます。一般にスーパーなどに並んでいる食用の菜花は明治時代に導入された西洋菜花が昭和に入って品種改良されたもので、それ以前から、農家は春には色とりどりの菜花を食べてきました。フキノトウから始まる春の訪れは、あふれ出す畑の菜花と共に本格的な春の到来へと移ります。
牛にやり 鳥に刻みて
われも食う 春の夕べの菜の花づくし
山本フサ
農家である作者の季節に合わせた豊かな暮らしの情景がひろがります。こうした自然の変化と共にある食卓は、私たちの身体を季節に沿うように知らぬ間に整えてくれます。例えば菜花の「苦み」は冬の間に新陳代謝が緩慢になりたまった体内毒素を洗い流す作用があり、茎立ちした部分は消化しやすい良質なたんぱく質として生命の繁殖期である春を迎えるための持久力を育てます。また、菜花の蕾はロ-ヤルゼリーの栄養と同等に強力な殺菌力を持つ天然の抗生物質などが含まれています。
春先に「げんきの市場」の野菜売り場を覗くとそれぞれの生産者の畑から「色とりどりの菜花」が並べられています。「菜花ばかりが並んで何もない」と感じる人もいるかもしれませんが、「春が動き出すこの期間は、意識して菜花を積極的に食べなさい」という、自然界からのメッセージなのです。生活する場所でその時々にとれる旬の野菜を集中して食べていくこの「ばっかり食」は、その季節と土地柄と身体との絆を強め、知らぬ間に身体と季節とを合わせてくれます。そして毎日でも食べ飽きずに食べる調理の工夫が、生命を育む食べ物と私たちの付きあいを深めます。畑(自然)に直接繋がり、季巡に沿う「食」を楽しむ事が出きる私たちの食卓は、この時代に私たちが取り戻すべき暮らしの中にある豊かさなのです。