子供たちのオーガニック給食実現の為に活動をされている若い奥様がアルバイトで慣行栽培の畑の手伝いをする事になりました。そして、「慣行栽培でも農業の大変さ、野菜を育てる事の苦労がわかって『オーガニックでなければダメ』という考えはなくなりました。」と話されていました。今週は、この言葉を受けまして、長年、食の安全に携わってきた私の考えを書かせていただきます。
若い頃に北海道の生産者に聞いた忘れられない話があります。北海道では大根は葉をつけて出荷していたのですが、葉にひとつでも穴が開いていると市場で安く買い叩かれるため念入りに農薬を散布して穴一つ空かないように育てていたそうです。ある日、遊びに来た友人に大根をあげると言ったら、その友人はキレイな葉のついた大根を持って帰ろうとしたので、葉が穴だらけの自家用の大根の方を持って帰るように言ったとの事でした。その時に、ご自身の仕事の矛盾を感じて方向転換をしたとの事でしたが、同じような事は食品業界では溢れています。自分が働いている干物工場の干物を決して食べないパートさんや、自分の会社のパンを食べない巨大パンメーカーの社長など、その内容がわかれば生産している自らが食べることが出来ない食品が社会に溢れています。
日本の慣行栽培における農地面積当たりの農薬の使用量は、中国や韓国と並び世界でもトップクラスなのが現状です(2018年FAO調べ)。実際の生産現場で農薬は病気や害虫が出たからしかたなく散布するというのではありません。安定生産するために、現実的に病気や害虫の被害を受ける前に、定期的に農薬を野菜に散布(防除)いたします。カビなどの病気を抑える殺菌剤や害虫を駆除する殺虫剤も、現象が発生する前に防除をするという形で使うことで、効力が有効に発揮されます。そして、この異常気象の中では、その役割はいっそう重要となっているのが現実です。
「げんきの市場」に出荷されている吉澤さんは40年近く有機農業一筋の生産者ですが、前に「人参の葉が畑で萎れているのを見つけては、回りをほじくりネキリムシを退治していたので、結果、被害は少なくすみました」というお話をお伺いしました。あまりに手間がかかる現実に、慣行栽培と比べて何倍手間がかかるのかお聞きすると、「何倍かはわかりませんが、ただ、とにかくやるべき仕事が多くて間に合わず、肉体的にも精神的にもきついです」との事でした。無農薬栽培は慣行栽倍よりも何倍も手間暇がかかり、更に生産リスクが高いのが現実です。それでも「げんきの市場」に出荷されている生産者の方々は、目には見えない所で、そうした努力を続けられています。
長年、佐藤先生の食事療法の勉強会を主催してきて、本当に多くの方が健康を取り戻すのを見てきました。実際その時に、何よりも大切なのが、ちゃんとした食事をとる事なのです。生命力のある旬の無農薬野菜と穀物を中心に伝統製法にのっとった調味料を使った食事です。無農薬栽培の野菜や穀物に多く含まれている天然成分「サルベスト―ル」はガン細胞に反応し抗ガン物質に変化をし、同じく免疫ビタミンと呼ばれ健康維持に欠かせないLPS(リポ多糖)も無農薬栽培された野菜や穀物に多く存在しています。慣行栽培が問題だとは言いません。ただ、その中でも無農薬栽培の畑とまっすぐにつながった私たちの食卓は、この時代のひとつの贅沢でないかと実感いたします。