~木村秋則さんの奇跡を起こす 見えないものを見る力~

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野菜情報VOL.740 令和7年2/9~2/15

 今週は木村秋則さんの著書「奇跡を起こす見えないものを見る力」(2011年刊 扶桑社)について書かせて頂きます。木村さんは絶対無理だと言われていたりんごの無農薬栽培を約10年かけて成功した方で、そのりんごは「奇跡のりんご」と呼ばれています。そして、ご自身の農法を「自然栽培」と名付けました。その農法は全国に広がっている現代の農業界におけるカリスマです。

 この木村さんがりんごの無農薬栽培に挑んだ10年は、貧しさと近所の目に苦しめられた壮絶なものでした。貯えは底をつき、車、トラクター、田んぼなど売れるものは全部売り払い、それでも足りず、親せきや銀行、さらには消費者金融にまで借金をしました。電話が止められ、税金や学費を滞納し、健康保険さえ払えず保険証は取り上げられました。税金が払えず家や畑は何度も競売にかけられそうになりました。ご両親とお子様3人の7人家族の木村さんはその日の食べるものにも困り野草のおかずやお粥で何とか飢えをしのぎました。3人のお子さんは1つの消しゴムを3人で切り分けて使っていたそうです。そして、最初は無農薬栽培を受け入れていた近所の方も、りんご栽培における病害虫は死活問題であり、その発生源に木村さんの畑がなるのではという危惧から、知り合いや友達は次々と去って行きました。そして、それでも頑固に無農薬にこだわる木村さんは近所から無視され、回覧板は回ってこず、親せきの付き合いも全くなくなりました。

 そうした中で800本あったりんごの木は半分に減り、残った木もいつ枯れてもおかしくない状態となりました。それでもたった1個のりんごを実らすことも出来ません。木村さんは「万事尽きた」と思い、首をくくるロープをもって岩木山に登ります。そして死に場所にしようと枝にロープをほおった所、それが外れ、拾いに行くと、数メートル先に見事に枝を張り、豊かな葉を繁らせていたりんごの木が見えました。近づいてみるとそれはドングリの木でしたが、どの葉にも虫食い一つなく、病気にもなっていません。ドングリも元気に育ち、その木の周りは木村さんの肩くらいまで雑草だらけで、土がふかふかでした。手で掘ってみるとその土は柔らかくて湿っていて、山の土独特の香ばしくて懐かしい香りが立ち上がります。その土は、木村さんの畑の土とはすべてが違っていました。そして「この土をつくればいいんだ!」と思わず叫びました。そこには木村さんが長年探し続けた答えがあったのです。そして、山土の特性を学んで畑の土を変え、雑草を茂らせた木村さんのりんご畑の木にはやがて花が咲きはじめ、無農薬栽培のりんごの実が育ち始めます。

 木村さんが提唱する「自然栽培」にはマニュアルはありません。その基本は①自然にそった栽培をする②化学的に合成されたものは使用しない③植物が本来持っている力を生かして、生産向上につなげる④土を生かす。の4つだけです。そして作物の気持ちになり、その声を聴く事が大切だと書かれています。今から9年前、私が「自然栽培の生産者の集い」に参加した時、鶏を飼っている人が自然栽培を名乗り有機堆肥を使う事に驚きました。しかしこの本を読んで分かったのは「自然栽培=無農薬無肥料栽培」が絶対ではなく、生命を守りながら「自然を生かす工夫」をする農法だという事です。それは生命を見つめ育み、自然の循環を守り、そして地球の復活を担う仕事です。

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10満留古農場、Ritsuko Komoriya、他8人

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