「げんきの市場」で買い物をされているお客様から素敵なお話をお伺いいたしました。「ゴールデンウイークに久しぶりに子供たちが帰ってきたのよ。それで小松菜と油揚げの煮びたしをつくったら、子供たちが口に入れたとたんに美味しさに感動して、『どんな味付けをしたのか?』って、私に聞くのよ。小松菜と油揚げをみりんと塩で味付けして醤油を香りづけに入れただけのシンプルな味付けなんだけど、子供たちはそれだけじゃない、味わいがあると大絶賛。あと、レンコンを炒めてきんぴらにしたら、『こんなレンコンを食べた事がない』って言うのよ。それで『レンコンってこんな香りや甘味があるんだ』て…。だから、子供たちに教えてあげたの。料理は味付けではなくて、素材が決めてなのよって」。きっとお子様たちは久しぶりのお袋の味との再開で、美味しさが増幅されたのかもしれません。それでも農家さんたちのご苦労を思うと有難いお話です。
5月21日、朝倉玲子さんの「五感を呼び覚ます料理教室」が開催されました。朝倉さんは素材一つ一つに向き合いながら、その美味しさを最大限に引き出す料理をご指導されています。それは巷に溢れている何々を何g、それを何分茹でてといった数字で決まりきったレシピによる料理とは異なり、自身の五感を研ぎすまして材料に向き合い、調理を進めます。例えばパスタをゆでるのも時計にたよらずにその変化を見極めてゆで上げます。そして、そのようにして進める調理による素材の変化を、何度も参加者と共有しながら、自身の五感でつくる料理の楽しさを教えていただきました。当日参加された方からは「とても勉強になる事が多く、気づきがたくさんありました。本物の調味料といい素材を組み合わせれば化学でつくられたものは必要ありませんね。自分の身体が喜ぶ食を今後は取り入れていきます」、「初めてではないのに忘れてしまったことも多く、改めて勉強になったのと、心から感動する料理を味わえて身も心も満足した」といった、多くの喜びの声を頂戴致しました。
昔イベントに出店して野菜を販売していると、年配の女性が野菜を眺めていました。私が「生産者が丹精込めて育てた野菜はお浸しに醤油をかけただけでも、ホント美味しいんですよ」と話しかけると、「そうなのよねえ。子供がいた頃はこうゆう野菜(有機野菜)で料理もしたけれど、子供も出て、主人も亡くなって、一人きりになったら、料理をする気も無くなって、コンビニ弁当とか出来合いのものばかり食べていたの…。そうしたら、『食べたい』という気持ちもなくなって、いつのまにかウツのような症状になっちゃったのよ」と話されていました。その時、私は「一人になられた時こそ、生産者がちゃんと育てたものを食べるべきです。そうした素材の美味しさは心に届きます。一人の食卓こそ自然の恵みに繋がってください」とお話ししました。その方は「そうねえ」と言って、野菜を買って下さいました。例え一人きりの食卓だとしても、土の世界と繋がっていれば、例えささやかな食卓でも生きる事の豊かさに溢れています。私たちは朝倉さんの料理のように五感を研ぎ澄まし、感受性を広げ、自然界から頂く喜びに繋がりながら暮らしを彩りたいものです。