「豆腐百珍」から考える 地球の未来との素敵なつながり 野菜情報VOL.669令和5年8/208/26 

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「豆腐って、冷奴以外の食べ方あるんですか?結局、うちでは豆腐って、冷奴以外で食べないです」と、買い物に来られた若い奥様に、そう尋ねられました。確かに我が家でも殆どはのせるものを変えた冷奴で食べていて、それと麻婆豆腐が豆腐料理のメニューの殆どかもしれません。私は豆腐が好きなので、毎週冷奴が出ても飽きませんが、若い奥様が切り盛りする食卓では、「豆腐はそういう存在なのだ」と気づかされました。薬膳料理では豆腐は、体の中で毒を作り出さず、植物性たんぱく質が豊富で栄養価も高く、また、体液を増やす食材として頻繁に使われます。また、女性のホルモンバランスも良くするので、女性の方は毎日食べてもいい食材です。

 豆腐は紀元前2世紀に中国で食べられるようになり、日本には奈良時代に遣唐使により入ってきました。それから長く日本では貴族や僧侶や武士といった特権階級の人々の食べ物でした。江戸時代になっても3代家光の時代に出された「慶安御触書」には、豆腐は贅沢品として、農民が製造する事を禁じています。それが、江戸時代も中期になると、庶民の文化が江戸や大阪などの大都市を中心に華やかになると「豆腐百珍」(1782年刊)という豆腐を使った料理100品の作り方を解説した本が出版され、大ベストセラーになりました。そして、翌年には「豆腐百珍続編」、さらにその後「豆腐百珍余禄」が出版されています。この頃になってようやく豆腐は庶民にも手の届く食べものになりました。しかし、当時はまだ高価なハレの日の食べものであり、今現在のように誰もが食べる事が出来るようになるには時間がかかっています。

 この「豆腐百珍」の現代版を料理研究家の大原千鶴さんが2021年に出版しました。大原さんは京都の花脊の摘み草料理で有名な名旅館「美山荘」に生まれ、現在、京都の家庭料理を基本にした季節感のあるレシピで、NHKの「きょうの料理」でも講師を務める人気料理研究家です。大原さんは江戸時代の大ヒット料理本「豆腐百珍」を実際に作ってみながら豆腐としっかりと向き合い、豆腐の奥深さを味わいながら、この時代に合う豆腐の料理本として、「大原千鶴の『新・豆腐百珍』シンプル美味!からだがよろこぶ100レシピ」(世界文化社刊)を出されました。

 大原さんの「新・豆腐百珍」では、生・焼・温・蒸・油・汁とそれぞれの方法で、豆腐好きを公言する大原さんのオリジナルレシピを含めて、ごはんの主菜、副菜、どんぶり、鍋物、おやつ、デザート、酒の肴、汁物など100個のレシピを掲載しています。その一つで「豆腐百珍」に掲載されている豆腐を細長く切ってうどんに見立てた「うどん豆腐」を「うどん豆腐 焼き鴨添え」にアレンジして再掲載されています。大原さんはこれを始めて試した時、「食べてみるとあれ?なんか脳がうどんだと感じている?糖質オフとは思えない満足感で驚きでした。」と述べられています。この本の中で大原さんは、豆腐料理の決め手は「水きり」であるとして、本書で3種類の水切りのやり方を紹介しています。そして、それぞれ方法でレシピに合わせて水切りをして調理しています。

 「もし私たちが沢山の野菜と穀物と豆を食べ、肉食を少し控えれば、未来の地球と素敵な『いいつながり』ができる。地元でとれたたっぷりの野菜と少しの肉か魚。そして豆腐があればいい。それは昔から京都で行われていた慎ましやかな食事。そんな事を考える折、江戸時代の大ヒット料理本『豆腐百珍』に出会った」と、本書を出すきっかけを綴られています。そして「私たちのささやかに見える一歩が地球を救う。本気でそう思っています。」と、この本への思いを話されています。

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