欧州の知性と称されるフランスの経済学者で思想家でもあるジャック・アタリ氏が、NHKの新春スペシャル番組「混迷の世紀・世界は平和と秩序を取り戻せるか」という番組の中で、2023年の「世界の食料問題」について、「もし私たちがすぐに大規模な行動をしなければ人類史上最大の食料危機が待ち受けています。それは15億人以上に影響を及ぼすでしょう」というショッキングな予測をしました。そして、「過去4000年、世界中で起こった戦争の原因は食糧危機による飢餓です。ウクライナとロシアは小麦で30%、肥料で40%を世界に輸出してきました。それが入らなくなっており、戦争は危機を悪化させています。それに気候変動などの要素も重なり食料が全くなくなる恐れさえあり、さらには深刻な水不足も加わる事により大惨事に至るレシピは揃っているのです」と、非常に厳しい言葉をつづけました。
その番組の中でアタリ氏は日本の食料問題についても同じく厳しい予測をしました。「日本は人口減少の中で、農家は高齢化し、誰も農業をしたがらない。このままでは今まで生産されてきたものまでが生産出来なくなります」。そして、インタビュアーから「食糧自給率が低い日本がこの先どのようにして生き残ればいいのか」という問いに対して「日本の農家の育成に力を入れ農業を魅力的にするべきです。農家になりたいと思う条件を整えなければなりません。」と指摘し、「日本人は食生活を昆虫や雑草など別の食材に切り替え、牛肉を食べる事を極端に減らせば自給率は大幅に高まります。」と、答えました。これについて「実現可能なのか?」とインタビュアーが質問すると、「単純な話です。そうしなければ飢餓で死んでしまい、日本が消滅します」と答えました。
日本人の肉(牛肉・豚肉・鶏肉)の消費量は1960年から2019年の約60年間で約10倍に増加した一方で、お米の消費量は半減いたしました。これらの肉を作る為にエサとなる穀物を牛肉1㎏で11㎏、豚肉1㎏で6kg、鶏肉1㎏で4㎏が必要です。ちなみにこれらの飼料の国内自給率は6~9%で、アタリ氏が「牛肉を食べるのを減らせ」というのはこのような背景を踏まえての事です。肉の消費量が右肩上がりで増えたこの時代は、日本人にガンをはじめとする生活習慣病が増えていった時代と符号します。「生活習慣病」の「生活習慣」とは「食習慣」であり、それが大きな原因の一つであると考えられています。アタリ氏の提案する「昆虫と雑草という食事」は悲壮感があり厳しい未来ですが、私たちが「健康」を取り戻すために実践している旬の野菜と未精白の穀類を中心にした「穀菜食」の実践には喜びがあります。そして、それが同時に現在のこの世界の危機的状況にも則した食であり、さらに「地球環境」を「健康」への同心円へと広げて導いていきます。
土の健康が作物を育て、
作物の健康が人間を育て、
人間の健康が社会を育てる
先週の野菜情報の最後に、「『生命』という動的平衡の同心円を拡げて、『健康』という喜びを紡いでいきたい。」と書きました。その為に今最も大事な事は、私たちの「健康」を支えている生産者の「未来」を守る事です。そうしなければ、「土」の世界から広がる「健康」は広がりません。そして、それを守る事は「健康」という「動的平衡」を社会へと広げるだけではなく、同時に「飢餓」という未来から私たちが救われる事にもなります。第2回生産者の方々との懇親会を4月18日(火)に開催いたします。詳しくは裏面をご確認ください。健康な生命の同心円を拡げるために必要なのは私たちの暮らしの中の行動であり、この取り組みの成功は未来に大きく貢献いたします。