「長野おばあちゃんが伝承する 『心』につながっている食」野菜情報VOL.598 令和4年3/6~3/12

 「長野おばあちゃんの料理教室」(西日本新聞社発行)という本を今週はご紹介致します。福岡県の自然食の店・茅乃舎(かやのや)で5年間にわたって開かれた「長野おばあちゃんの料理教室」、その中で伝えられた旬の保存食のレシピと知恵がこの一冊の本に収められています。

 「自然の恵みをどれだけ生かせるか。それが知恵です」と話す長野おばあちゃんの食の知恵と共に、「春・夏・秋・冬」と別れた目次の中で四季折々を彩る保存食や料理が美しい景色と料理の写真と共に繰り広げられています。

 長野おばあちゃん(本名:長野路代)は、福岡県の真ん中の山間にある小さな筑前内野村の農家に生まれました。豊かな山や田畑に囲まれ、家庭では幼いころから、自然のものを使って、何でも自分たちで作ることを教えられてきました。そして、第二次世界大戦後すぐの15歳の時に母親を亡くしてから、一家の食事を担ってきました。そして、60歳の時に農村加工所「野々美会」を立ち上げ、失われていく日本の暮らしを伝えていきたいと先人から受け継いできた生産・保存・加工を通して、日本農業の伝承や食の継承に努められています。この本の発刊当時(平成25年)、長野おばあちゃんは84歳の働き盛りを迎えていました。

 長野おばあちゃんはこの本を読んで料理をつくる方へのお願い事として、掲載されているレシピの味付けの分量や煮る時間はあくまでも目安と考えてほしいと書かれています。野菜は取れる時期や育てられ方によりひとつひとつ味も水分量も煮える時間も違うので、この本を正解にするのではなく、1人1人が素材と向き合い考えて作ることの大切さに気づいてほしいとの事です。実際の茅乃舎の料理教室でも「暗記」や「数字」が大事ではなく、野菜の状態によっても違うということに「気づく」こと、「工夫する」ことが料理をおいしくすることだと学んでほしいとの思いから、レシピは作らなかったそうです。

 この本を通して長野おばあちゃんが伝えたいことは、食は頭ではなく「心」につながっているという事です。「昔は、物はなかったけれど、その中で心を抜くということはありませんでした。今は、物はあるのに時間がないからと手近なできあいのものに頼り過ぎ、心がおろそかになっていないでしょうか。手抜きはいくらでもしていいです。ただ、いちばん大事な心だけは抜いたらいけないと思います」と訴え、そして、そういう時代だからこそ、「自分で工夫することや旬の食材、四季の習わしなど日本らしい知恵や心配りを大切にしたい」という言葉をつないでいます。

 料理研究家の辰巳芳子先生も「今、食の根幹で何かが失われようとしています。食まわりの季節の移ろいをこまやかに受けとめる、旬を意識した心。食情報のにぎにぎしさに反して、実際の台所仕事としての料理離れ。」と著書の中で綴られています。「長野おばあちゃんの料理教室」は人の心を育て、生きる力を身に着けていくヒントが散りばめられた一冊です。

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