今週は医学博士の奥田昌子先生が2022年3月に講談社から出版した「日本人の『遺伝子』からみた病気になりにくい体質のつくりかた」をご紹介致します。先生は京都大学医学部卒業後に博士課程に進み基礎研究に従事している時に「生命とは何か、健康とは何か」を模索する中で予防医学という理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で30万人近くの診療にあたり、現在は産業医としてストレス対応を含む総合診療をされています。
この奥田先生が予防医学を目指して多くの人々の診療にあたりながら、海外医学文献の翻訳や医学書の翻訳も行い、現在、提唱されているのが「ゲノム健康法」です。ゲノムは、皮膚、内臓、筋肉、神経を含めて全身の細胞のほぼすべてに1セットずつ入っている「設計図」で、細胞は昼も夜もゲノムという名の「設計図」を参照しながら、自分たちに出された指令を忠実に正確に迅速に実行しています。ちなみに遺伝子はその中の文章、DNAはその中に書かれている文字に当たります。これを基に作られた「体質」の強みと弱みを知り、生活習慣と環境の悪い影響を避け、良い影響を受けるように努めるというのが「ゲノム健康法」です。
当初、遺伝子解析が進むことによってゲノム(全遺伝情報)がわかれば、その人が一生でどんな病気になるかがわかり、それは逆らえない決定的な事であると考えられていました。しかし、実際にはそれはあくまでもその人の「体質の基礎」でしかなかったのです。言いかえれば病気のなりやすさやなりにくさであって、決定的なものではありません。例えば、アルツハイマー認知症になりやすい遺伝子を持つ人を対象に実施された調査研究でも、「ものの考えかた」の違いによって、認知症の危険が約半分になります。ゲノムは日々変化して、それまでの指令を突然取り消したり、強めたりするものなのです。
ただ「体質」は親子間でも、また民族でも引き継がれていきます。日本人の持つ体質については先週の野菜情報で書きましたが、個人に受け継がれている「体質」は両親など身内の死亡原因を調べる事が、現時点ではゲノム解析するよりもはるかに簡単で分かりやすい方法です。これらの「体質」を下地にして、「食生活」や「運動」、そして「心の持ち方」という「生活習慣」と「環境」に影響を受け、私たちの「遺伝子」は変化します。そして、それらは成人以降でも、生活習慣次第で悪い遺伝子のスイッチを切ったり、健康に役立つ遺伝子のスイッチを入れたりする事が明らかになってきています。
本書を読み進めると、長年にわたり「げんきの市場」が佐藤先生にご指導いただいている「健康法」に驚くほど共通している事に気が付きます。それは「健康」は「食・心・動・環」の4つに育まれ、「穀菜食」がその土台となります。「日本人の『遺伝子』からみた病気になりにくい体質のつくりかた」という現代医療の最前線から予防医学を提唱する本書を読むことにより、佐藤先生が難病の方々と共に過ごされた歴史の素晴らしさを再認識いたしました。