「飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ」(祥伝社 井村和清著)という本があります。骨肉腫で右足を膝から下で切断し、その後に肺に悪性腫瘍が転移したことにより32歳の若さでこの世を去った医師の井村和清さんが家族に対する思いなどを綴った遺稿を収めた本です。表題の「飛鳥」は、亡くなられた時に2歳だった長女の名前で、「まだ見ぬ子」とは、亡くなった当時に奥様のおなかの中にいた子供の事です。
井村さんが肺への転移を聞いて「残りの人生を歩けるところまで歩いて行こう」と決心して病院を出た時に、不思議な光景を見ることになります。その日の夕暮れ、世の中全て明るく見え、買い物で出会う客も、走りまわる子供達も、犬も、垂れ下がる稲穂も、雑草も、小石さえも輝いて見え、アパートに戻ってみた妻も手を合わせたいほどに神々しく見えました。井村さんは人生がもうすぐ終わる事がわかった時、日常の全ては光り輝いていたのです。
例年より2週間ほど早く吉川市の生産者の山崎さんの畑から新じゃがいもが始まりました。桜の開花や梅雨入りも早まりつつある昨今、この天候が畑にどんな影響を及ぼしているのかを山崎さんにお聞きしました。「今までは害虫の被害は少なくて助かりました。ただ、雑草の伸びが例年より早いですね。あと、雨が多くて夏野菜の苗の植え付けが遅れています」
吉澤さんに同様にお尋ねましたところ、「今までにない順調さです」という返答を頂きました。「有機農業を始めて30年以上たちますが、今までほうれん草は病気が出やすいのもあって5月にはまともに出荷できたことがありませんでした。それが今年はじめてうまく作れたんですよ。それ以外にもキャベツ、大根、ブロッコリーなど春野菜全般が問題なく育っています。雨の日は多いですが、雨量はそう多くありませんので病気の方も大丈夫です。順調な理由の一つは自家製の堆肥が影響しているのかもしれませんね。」
先週の野菜情報でもご紹介したNPO法人「大地といのちの会」代表の吉田俊道氏は「有機野菜には、その外部や内部にたくさんの有用菌がすんでいて(植物内生菌)、それを何か月も食べ続けることで、腸内細菌の種類を昔の日本人なみに増やし、本格的な免疫力を復活させる効果がある」と指摘されています。生命現象を全体としてとらえるホリスティック医学でも、その土地に住む土着菌は腸内細菌のバランスに影響を与えているとし、自分の土地の農業で育てられた野菜や発酵食品を摂ることが良いと考えてられています。
歴史に残る新型コロナの大流行の中で、昨年の冬野菜もそうでしたが、有機栽培で育てられた春野菜たちが思いのほか順調に育っているようです。暗く覆われているように見えるこの世界は実は光り輝いています。「開けない夜はないからねえ~。あともう少し、野菜でもうんと食べて、みんなコロナに負けんようにねぇ~」と、そんな天の声が響いています。