今年の2月に「死亡した人間の脳からナノプラスチックの生体蓄積」という非常にショッキングなタイトルの論文が医学誌「Nature Medicine」に発表されました。アメリカのニューメキシコ大学の研究チームが死亡した52体の検体を解剖し特殊な顕微鏡で観察した所、腎臓や肝臓などあらゆる全身臓器でプラスチックの体内蓄積が確認できました。そして、その中で一番多く蓄積されていたのが脳で、腎臓や肝臓に比べて7~30倍というのです。生態系への悪影響で注目を集めているマイクロプラスチックは、歯磨き粉や洗顔ファームに含まれている他、捨てられたプラスチックが紫外線や波で風化して微小化されたものです。脳に蓄積されていたナノプラスチックはそれよりさらに小さいウイルス等と同程度までの微小なプラスチック粒子で、肉眼で見る事が出来ない大きさです。そして、その中では、認知症を発症している人の脳にはナノプラスチックの蓄積が普通の人より多く、認知症との因果関係が取りざたされています。このような人体に入り込み直接影響を与えるナノプラスチックですが、いったいどのような経路で人体に吸収されているのでしょうか?
人体に隈なく張り巡っている毛細血管の細胞にはつなぎ目に隙間があり、そこから栄養が体中に届けやすくなっています。人体中にはその経路より運ばれる事は考えられるのですが、脳の場合は状況が違います。脳は高度な生命維持や情報処理を行う為の様々な情報伝達物質が飛び交っており、その脳に余計な異物が入り誤動作をしないように脳の毛細血管は細胞同士がピッタリ密着し隙間がありません。そして毛細血管の細胞が必要なものだけを脳に出すという「血液関門」というシステムがあり、異物であるナノプラスチックが脳内に入る事は出来ないのですが、オーストリアのウイーン医科大学のルーカス教授は血管内でコレストロールの分子がナノプラスチック全体を覆い、それにより脳が誤作動をして「血液管門」を通過し、脳内に侵入させてしまうと推測しています。
このような人体の中のナノプラスチックの蓄積は、実際、どのような影響をおよぼすのでしょうか?人間はおよそ37兆個の細胞出来ている多細胞生物です。皮膚や臓器、あらゆる身体が細胞で出来ています。国立環境研究所の伊藤智彦先生はナノプラスチックが人体に入ると、細胞の中のリソソームにナノプラスチックが取り込まれる事を突き止めています。リソソームとは小さな袋状をした細胞内小器官の一つで、その中には分解酵素が入っており、細胞内で出来た老廃物を分解し再利用する働きをしています。伊藤先生は、「細胞内に取り込まれたナノプラスチックをリソソームは分解し再利用しようしても、ナノプラスチックは分解されることはなく蓄積されていき、リソソームが細胞内の不必要なたんぱく質を分解出来ずに蓄積する事になります。それにより神経性疾患などさまざまな病的な症状と繋がる可能性がある」と、指摘されています。そして、動脈内のナノプラスチックが心血管疾患のリスクを高める可能性や、がん細胞の増殖を促進する可能性を指摘されています。目に見えないナノプラスチックは大気や河川、食物等のあらゆる物から私たちの身体に入る事が出来ます。本来、自然界には存在しないプラスチックは地球の環境と共に私たちの身体をも蝕んでいるのです。今こそ、地球と同心円の私たちの健康を育てて行きたいものです。
(参考資料:NHK Eテレ2月3日放送 フロンティア 脳に忍び込むナノプラスチックを追う)
