「コメ騒動の現在地」から私たちの生命を守る米を考える 野菜情報VOL.767 令和7年11/2~11/8

  • URLをコピーしました!

今年の8月、「コメが余っているというのは間違いでした」と農林水産省は異例の謝罪を行いました。昨年から続いている「令和のコメ騒動」の原因に、長年、農林水産省が進めてきた「減反政策」により「コメ不足」が起きている事をはじめて認めました。そして、新米が穫れても米価の上昇は今のところ収まる事はありません。そんな状況を、東京大学院特任教授の鈴木宣弘(すずきのぶひろ)氏は、「『コメ騒動』の現在地として、①過剰な減反政策により②稲作農家の疲労が根底にあり、それに③猛暑の生産への影響と④需要の増加が加わり、コメ不足が一気に顕在化した結果であり、農家の疲労を食い止めて安心して増産できる稲作ビジョンが急務だ」と指摘されています。

 私自身も新米が始まる8月当初は「5kgで3500円位までなら何とか売れる価格なのだが…」と考えていましたが、現在、一番安い価格で4500円代での販売となっています。仕入れの価格の上昇が予想をはるかに上回るもので、私が知っている大手の米の販売会社は台湾やカルフォルニア産のお米の販売を進めています。「あまりにも高騰すると、一時は良くても、かえって将来の日本農業の衰退への道となるのではないか?」と、考えていました。しかし、実際に米作りの現場で、「げんきの市場」のお米をいただいている生産者の方々にお会いして、お話を伺い、実感したのは異常気象の中でお米が穫れなくなっている事と「コメ生産にはお金がかかる」という事です。

 専業農家としてお米を生産するためには、主要なものでもトラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機、籾摺り機等が必要です。前に福井の石塚さんから、「米農家を一から始めるために機械を揃えると、少なくても3000万円は必要です。」と伺っていたので、その事を山形の小関さんに確認すると「ここ数年で、農機具の値段がどんどん値上がりをしていて、恐らく5000万円くらい必要ではないですか?同じスペックのものでも値段が跳ね上げっているんです。トラクターは1年じゅう使えるので別ですが、1年に1~2週間くらいしか使わない機械を買い替えようと思うと新車1台の価格どころか、規模の大きいものに買い替えようと思うと外車1台の値段です。」

田植え機を買う決心して、淋し   
              
            水谷繁之

 農業従事者の平均年齢が70歳に近づく中、日本の農業は今、最大の分岐点に差し掛かっています。政府は農家の規模拡大を推し進めていますが、全国地域に残る多くの伝統や文化風習はそこに暮らす小規模農家がある事により成り立ってきました。そうした生産者のお米の60kg当りの生産費用は22000円(農林水産省・農産物生産費統計・中国地方・令和5年度)かかります。それでも先祖から受け継いだ土地を守る為に赤字でも農業を続け、その地域に暮らす者としての役割を担ってきました。たとえ今年は黒字経営になったとしても、それで簡単に解消されるものではありません。お米は日本人の主食であり、国土の中で100%自給する事が出来る作物です。そして、何よりも重要な食糧安全保障の要なのです。街で販売されるケーキが1個800円になり、ランチが1500円のご時勢を考えると、私たちの生命を守るお米が正当に評価されているのかもしれません。

よかったらシェアしてくださいね!
  • URLをコピーしました!