昨年、かつてないほどの記録的な酷暑は様々な記録を塗り替えました。そしてその中で「げんきの市場」の生産者の農業は苦しみました。その様子は野菜情報VOL.732「生産者の方々との語らいの中で思う『どうしたらこの価値が届くのか』」でふれましたが、その中でも苦しんだのが松伏町の舛田晃さんです。今週は、昨年、舛田さんが直面したその状況をご報告いたします。
昨年の夏は猛暑の中でのカメムシの異常発生はテレビでもよく取り上げられていたので、皆さんもご存じだと思いますが、松伏町の舛田さんの田んぼは被害をまともに受けました。「1反(300坪)で2俵(120㎏)しか、お米が穫れませんでした。坂戸の知り合いの方の田んぼは殆どカメムシの被害を受けずに例年通り穫れたそうです。同じ埼玉県でも被害の差は全く違います。」と、舛田さんはご自身のその状況のひどさを話されていました。通常の稲作では、品種や栽培方法で収穫量は違いますが、1反(300坪)あたり8俵から10俵(480㎏から600㎏)は平均で収穫されます。舛田さんの田んぼは実にその4分の1から5分の1の収量です。しかも収穫されたお米の多くは黒い斑点米で、まさしく不作と呼ぶだけではひどすぎる、飢饉ともいえる状態です。
昨年の11月27日に日本有機農業研究会で開催された「今年の作柄を振り返って 技術交流会」にズームで参加しましたが、その中で、現在、民間稲作研究所の代表の館野廣幸さんがご自身の田んぼで起きたカメムシの被害状況について詳しく話されていました。「一般的にカメムシのお米の被害というと、カメムシに吸われて黒く着色した斑点米を連想しますが、最初に出来た穂の枝梗部(しこうぶ:茎から出ている何本かの細い枝)をカメムシに吸われると稲穂が全く実らず、稲穂の中が空っぽになります。そうした吸い方をするカメムシが大量発生すると実が入らないまま稲穂(空っぽの実)が収穫時期になっても頭を垂れずに真っすぐに育ちます。その光景は、かつて見た冷害にあった飢饉の時の田んぼのようです。カメムシも日本に定着して第3世代に入り爆発的に増えている状況で、周りが農薬を使うと農薬を使っていない田んぼに被害が集中するようです。だからと言って農薬を使うわけにはいかず、今後はカメムシの生態の研究をして、防除できる方法を見つけるしかないですが、研究者も少なく生態はいまだによくわかっていないのが現状です。」
今年、舛田さんは13ha(3万9千坪)の大規模な稲作経営をされましたが、「最終的に400万円以上の赤字です。」と話されていました。今年の米価は高騰しており、「農家は儲かっている」と思っている方も多いと思いますが、販売できるお米の収量が少なく、やっと穫れたお米も斑点米で大変厳しい状況でした。舛田さんはコンバインで広大な面積の空っぽの藁の状態の実の入らない稲を毎日収穫し続けなければならず、そうした日々の繰り返しにホトホト疲れ果て、「1週間収穫を休みました」と、話されていました。舛田さんは自然栽培という高付加価値の作物を育てながら努力されている若き農業経営者ですが、それは決して平たんな道のりではありません。それでも、ご夫婦の力を合わせ、専業農家としてこれからの時代の目標になる「農業」を目指し努力を続けている姿に、心より敬意を表すと共に、舛田さんご夫妻とのご縁を「げんきの市場」は深く感謝致します。