しばらく店頭で野菜を眺めていたお客様が「この時期、旬の野菜は何ですか?」と尋ねられました。私は店頭を見て「ナスですかね。」と答えました。今年の夏、どの生産者もナスはとれたので、店頭の野菜売り場がそれぞれの生産者が持ってきたナス売り場になりました。記録を更新する歴史的猛暑の中で、トマトやきゅうり、インゲンやピーマンなど酷暑に耐えられない夏野菜が不作の為でした。そのお客様は「ナスは食べたばかりで…」と言われると、店を後にされました。
そこに並んでいたナスたちも酷暑により鈍い色艶で、つやつやとしたきれいなナスではありません。そのお客様から見れば私の返答はどう考えても、「売り場にはナスが残っているからナスを勧めた」と思われたでしょう。しかし、それは違います。旬の露地野菜は、とれる野菜こそが食べるべき野菜なのです。それぞれの生産者は安心して食べる事の出来る野菜を作る為に農薬の使用を抑えています。異常気象の中ではそれはさらに一層のリスクであり、そうした中でもそれらは育ち店頭に並びました。旬という漢字は日と勹(ホウ・めぐるという意味)と書きます。その時期の巡りの中で育つ野菜がつまり「旬」であり、その時に採れる野菜を食べる事が自然界から本当の意味での私たちへのプレゼントであり、それこそが私たちの身体にとっても最良なのです。
2024年は2023年に続き夏の世界平均気温は観測史上最高を記録しました。そして、9月2日に気象庁の異常気象分析検討会が、「もし地球温暖化がなければ、今回の猛暑が発生しなかった可能性は高い」と発表しました。人類は産業革命が始まって以来、化石燃料を大量に消費してきた事により温室効果ガスの濃度が高まり、熱の吸収が増えたことが地球温暖化の大きな原因になっており、また、木材を資源にするための森林伐採や産業型農業による森林破壊により、二酸化炭素の吸収が減少していることも原因の1つと考えられています。私たち人類が自己中心的に地球の中で生きてきた結果が、私たちの身の回りの現象として、今、私たち人類の未来を危うくしているのです。そして、私たちが人間本位の自己中心的な思考により地球に生きていくのではなく、地球という大きな生命体の中で、全ての生命が循環するひとつの存在として生きる事が求められています。
私たちが化学肥料や化学農薬を使用せず、土の世界の潤沢な生命により育まれた野菜を選択することは、私たちの身体というミクロコスモスを健全に潤し、そして同心円で地球というマクロコスモスの生命循環をサポートする事が出来ます。私たちが地球から与えられるものを人間本位に判断するのではなく、それを受け入れ、そこに喜びを育てる事により、私たちが地球の中で円満に暮らしていく事が出来るのです。頭の中になる夏野菜を追い求める事よりも、目の前にあるナスこそが自然界からのプレゼントであり、そして、私たちがそのナスを工夫して食べつくし、いただく喜びを育てる事は、足元で一番手軽で、一番簡単に地球とそこに生きる私たち人類の関係を紡ぎ直す手段になります。私たちの暮らしの中に地球と私たちの未来を変える全てがあります。地球という生命を中心にして、その中で循環する私たちの身体と同心円で地球という身体の健康を育てて参りましょう。私たちは自らが選んでこの時代に生まれて来ました。だからこそ私たちなら出来るのです。