「文芸春秋」2023年4月号の「記者は天国にいけない 第15回パブリック・エネミーズ」(ノンフィクション作家清武英利氏連載)の中で、「10粒の検体のうち6粒が中国産」疑惑の米を自ら大量購入して産地偽装を突き止めた農業記者のレポート記事が掲載されていました。
2017年、日本農業新聞出身の週刊ダイヤモンドの記者が疑わしいと思われるお米を購入し国内最大規模の産地判別検査機関(同位体研究所)に検査を依頼しましたところ、冒頭の驚くべき結果がでました。彼はJAに事実を潰される事を危惧し直接検査したのです。その結果JAグループの米卸会社が精米して販売した「滋賀こしひかり」について、「10粒の検体のうち6粒が中国産」と判別されたのです。さらに、「新潟県魚沼産こしひかり」は「10粒中4粒が中国産。残りの6粒も魚沼産コシヒカリではなく、他府県産である可能性が高い」、「京都丹後こしひかり」は「10粒中3粒が中国産」、「新潟産こしひかり」は「10粒中10粒が国産と判別された」という結果でした。この機械の判別精度は92.8%という事です。この結果をもとに、記者はJA京都中央会に質問状を送って反論を得て、弁護士に相談したうえで、誌上に〈産地偽装疑惑に投げ売りも JAグループの深い闇〉というタイトルで、告発記事を掲載しました。
2013年には大手スーパーIグループで販売された国産米約825tに中国産米が混入していたことが国民生活センターより報告があり、2014年にはコンビニMが中国産米の入った米を「国産100%」と偽っておにぎりを製造販売して、大阪の米穀販売会社の会長ら5人が逮捕されました。冒頭の「10粒の検体のうち6粒が中国産」はまさしく氷山の一角であり、米穀業界で産地を化かしたり、ブレンドする事は日常茶飯事の事です。大手販売業者は仕入先に、例えば「銘柄は魚沼コシヒカリで販売価格は2500円まで、利益率はいつも通りでお願いします」といった具合で納入している取引業者(冒頭の記事なら「JAグループのコメ卸会社)に依頼します。それに応えられないと取引が出来なくなるので、取引業者はそれに応えられるものを自社または委託している精米業者に指示します。その結果、指示された会社や精米業者はどう考えても無理な条件だとしても、「それをつくり納品をする」、それが現実の姿なのです。
かつて精米機のメンテナンスに来た職人さんから聞いた話ですが、「米業界で儲けている巨大な精米工場ではお米を精米する前に、米を選別するだけの機械を4台も並べて通して、ホントひどい米を混ぜて精米しています。それでいてネーミングは『農家のこだわり…』だったりで、ホント、恐ろしくなりますよ。」と、あきれた実態を話していました。このような大手精米工場の精米機には米に艶がでるコーティングや、お米の粘りをだすための添加物を入れる専用の投入口があるという事です。そして、このような莫大な設備投資した精米工場では、当然、それにより利益を生み出すことを目的としており、全てが常態化されたものなのです。
ただ、本来、日本の農業を守るはずのJAのその関連会社による中国産米混入偽装発覚であるという事実に、深いヤミを感じます。この記事の中でも、「魚沼産コシヒカリはいまだに偽装まがいが横行しており、しかもその仕業がJAグループによるものだとすれば、怒りを通り越して悲しくなる」という農家の声を取り上げていました。まさしく我が国の農業の実態です。