野菜情報VOL.751 令和7年5/18~5/24
りんごを頂いている青森の伊藤農園さんから届いた封書の中に、「今冬の大雪による被害」という文章が添えられ、3枚の写真が同封されていました。その写真のいずれもが、りんごの木の太い幹の部分が裂けるように折れている木の写真で、添えられた文章にはそれぞれの木が「治療不可能と判断し、小枝を落しチェーンソーで伐採(ばっさい)します」という状況説明が書かれていました。早速、電話で今冬の大雪のニュースの中で、伊藤農園さんが見舞われた状況についてお話をお聞きしました。そこには、この時代の私たちの国の農業の今が見えてきます。
「今までもうちの方は毎年雪は積もるのですが、例年なら大雪が降ってもその後2~3日後に気温が上がり、雪もとけていたのですが、今年は降った雪がとけないままその上に積み重なり、それの繰り返しで…。私の祖父が山間部の斜径の杉林を伐採して開墾してリンゴの木を植えた畑の被害が酷く、そこの植えられていたリンゴの木の枝は雪の重さで殆ど折れて、1割くらいは写真のように幹から裂けて治療不可能と判断し伐採しています。それで、例年なら4月の中旬に終わらせている枝の選定作業が、木の伐採とその木を薪にするといった跡片付けと並行しているので、5月半ばに入ってもまだ終わりません。田植えの準備もありますし、仕事が遅れています…。」
そして、伊藤さんから、「5月9日付の青森県の地方紙(東興日報)に、農業被害額が発表されましたので送ります」と、1面に掲載された記事のコピーを送っていただきました。そこには大きな見出しで「県内リンゴ雪害202億円」と書かれ、「リンゴの枝折れ」は津軽地域13市町村に及び、雪害によるリンゴの被害額は今までは1968年の152億5430万円が最高だったが、これを上回り過去最悪になった事が報じられていました。そして、伊藤農園さんのある弘前市の被害額が64億円で13市町村の中で最も大きい被害を受けているとの事で、これに対して県担当者は「山手でより多く雪が降った影響が考えられる」と、コメントしています。また、弘前大学の石田准教授(気象学)は「今冬は温暖化により雪が湿って重かった。さらに一度に大量の雪が降る『ドカ雪』が多く、被害拡大につながったと見られる」と、異常気象の影響という見方を示されています。
また、一緒に送っていただいた3面の関連記事には、「リンゴ生産『半分以下に』」という見出しで、被害にあわれた生産者の方の悲痛な声が載せられていました。その中のお一人は「全部の木で枝が折れた。枝が1本も無くなった木もあり、売り上げはいつもの3分の1とか4分の1とかになるのかな。売り上げはなくなるのに、支柱や薬剤など出ていくばかりが多くて心配になる。植え替えてもすぐに実は付かず、3~4年は苦しむことになる」と、行き場のない状況を話されています。私たち消費者は「現在の米騒動」でもわかる通り、自分たちが支払う「価格問題」が最重要テーマになりがちですが、それだけでいいのでしょうか?伊藤さんが幹から折れた無残な姿のリンゴの木の写真を撮り、私に届けたのは、ただ単に「そのような被害を知ってほしいから」というのではありません。私たち消費者の食卓に届くリンゴの奥におきているこの世界の現実に気づいてほしいからではないでしょうか?「私たち消費者は生産者と共に農業を守る事が出来る」そう信じています。
*伊藤さんから届いた手紙と写真です