野菜情報VOL.758 令和7年8/3~8/12
7月23日、千葉県横芝光町の生産者、林栄一郎(はやしえいいちろう)さんをお訪ね致しました。栄一郎さんは私が20代で働きだした「あいのう野菜の会」という産直グループの生産者で、40年近くのお付き合いになります。その当時、私は毎週トラックで栄一郎さんのお宅をお邪魔して、野菜やお米を積み込み、縁側でお茶を頂いていました。その後、私が独立した後も、林さんはずっとかわらずにお米を分けていただいております。栄一郎さんはいつも「山下君、お金はホントいつでもいいからよ…。来年のコメがサ、穫れるまでに入れてくれたらいいよ…。」といって、お米を送って下さっていました。明日はどうなるかわからない小さな店の私を信用して栄一郎さんからお米を送り続けていただいて、今日の「げんきの市場」があるといっても過言ではありません。
今年、栄一郎さんは88歳になられ、お孫さんの和誉(かずたか)さんが、農業を継がれています。和誉さんは現在、30歳で就農7年目です。大学を卒業するとすぐに北海道の農場で2年間研修を受けた後に継がれました。農業を継いだ当時は田んぼが2町歩、畑が5反でしたが、現在は田んぼ5町8反、畑1町で農地を広げて営農されています。和誉さんのお父様が継がなかった(教職につかれました)農業を継ぐ事に抵抗はなかったのか?をお伺いすると、「父は教員でしたが、同じ敷地に暮らしていて、子供の頃から手伝いをしていましたし、農業が日常でしたから…、農業を継いだことに特別の思いはありません」との事でした。しかし、歳をとった祖父の働く姿を見つめながら、「あとは俺がやるよ」と思われたのかもしれません。今、和誉さんはおじいさんがやってこられた減農薬栽培を守りながら、しっかりと育てた苗を、間隔をあけて植える事で1本1本がたくましく育て、稲が丈夫になり元気に育つよう実践していると話されていました。
お二人と一緒に車に乗り「げんきの市場」がお米を頂いている里山の東側のすそ野に広がる田んぼを見せていただきました。栄一郎さんは「ここの田んぼは山のすそ野にあるから朝と晩の寒暖差があって、土も粘土質でミネラルが多いから美味しいんだ。山下君の店には、ずっとここの田んぼの米サ送っているんだよ」と、その美味しさの理由を田んぼを見ながら話してくださいました。粘土質の土はスポンジのように水分をたくさん吸い込み、いつでも根が水分を吸収することが出来ます。そして、栄養分をたくさん蓄えているので根から栄養もたくさん吸収されていきます。
実際、平成17年はこの里山の東側の田んぼの米が皇室への献上米に選ばれたそうです。その時のことを栄一郎さんは「選ばれた隣の田んぼの家は、白い絹の袋にお米を1升入れて桐の箱で献上すんだけど、一週間かけていいコメを選別して拾って皇居にもっていったらしいよ」と、笑って話されていました。「作物の味はその作物を作った人間味の味がする」という事を、私は産直のグループに入って間もない頃、長野県のリンゴ農家の小林武助さんから教わりました(今もお孫さんからリンゴが届いています)。久しぶりに栄一郎さんに再会し、和誉さんにお会いして、改めて感じた事は、確かに美味しい条件のそろった田んぼのお米ではあるけれど、頂いているお米の味は何よりもお二人の味がするという事です。今年も間もなく新米の一番手として林さんのお米が届きます。