5月9日に「放射能照射による品種改良 何が問題か」という学習会が分子生物学者の河田昌東(かわたまさはる)さんが講師でOKシードプロジェクトにより開かれました。今週はその報告を致します。OKシードプロジェクトは寄付金により運営されている食の安全を守る民間団体です。
人為的な放射能照射によるお米の品種はすでに1966年に生まれています。黎明(れいめい)という品種で、現在までこの黎明を親として112種類がつくられています。酒米の美山錦や出羽燦々と言った品種です。今までの作物に放射線育種には使用された放射線は紫外線、ベータ線、X線、ガンマ線などありますが、今回、問題として取り上げる「コシヒカリ環1号」はイオンビーム照射という新しい技術でつくられました。これはいままでの放射線が小銃だとすれば、イオンビーム照射は大砲に例えられるほどの遺伝子を破壊するパワーがあります。そして、その破壊力が甚大な為にDNAの二本鎖を同時に破壊してしまいます。ゲノム編集で行われるのもこの二本鎖の切断で、修復ミスが起きやすく変異が大きくなると懸念されています。今までの放射線照射は自然界で起きる変異を作為的にやるに過ぎないという理由で行われてきましたが、このイオンビーム照射はその言い訳が通用しない、自然界ではまずおきない不自然な遺伝子操作です。
この「コシヒカリ環1号」の問題点について指摘する前に、この品種が生まれた背景を補足致します。ウクライナへのロシアの侵攻以降の化学肥料の高騰が後押しとなり、農水省は下水汚泥を肥料の原料として使用することを奨励しています。しかし、下水には工場など様々な排水が混ざるため、カドミウムなどの重金属が含まれる恐れがあり、それが低濃度だとしても蓄積する事により、カドミウム汚染が発生するリスクがあります。ちなみにイタイイタイ病という公害訴訟もカドミウムによる汚染が原因でした。そこで、土壌のカドミウムを吸収しづらい品種をつくるためにイオンビーム照射がつかわれたのです。ちなみに昨年の8月、岡山大学の研究チームがインドで3000年前から栽培されていたPokkall(ポカリ)という在来種とコシヒカリの交配により、食味の良いカドミウム低集積性品種の育成に成功したことが科学雑誌「Nature Food」に掲載されています。
この放射線育種米の問題点は、遺伝子の一塩基が欠損する事により、フレームシフトが起こり、これまでに存在しなかったタンパク質がつくられる可能性あるという事です。フレームシフトとは塩基が1つ欠損する事により、それ以降のアミノ酸の配列がすべて変わってしまう事です。そしてそれがアレルギーの原因になったり、それ自体が毒性を持つ可能性も否定できません。現実的に遺伝子組み換え大豆でそれが報告されています。私たちは大豆を食べる時は生のままだと下痢をおこすので、加熱して食べていますが、この下痢をひき起こすトリプシン・インヒビターが110℃で加熱しても壊れず、220℃まで加熱してやっと壊れてモンサント社は安全審査をかいくぐっています。
2018年に農水省は今後の日本の主要品種をこのカドミウム低集積品種にしていく方針を決めました。そして、すでに品種登録出願が確認できた品種だけでも15種類に及んでいます。2025年からは兵庫県と秋田県で主力品種の「コシヒカリ」と「アキタコマチ」をこの放射線育種米に切り替えることが決まっており、今後、他の都道府県でもその動きが高まる可能性があります。もし、この事実について、今、私たちが何も声を出さずにいれば、全国的な主要品種で「コシヒカリ環1号」との交配種の導入が進み、日本のお米の殆どが放射線育種されたものなる可能性があります。